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父死亡で母が認知症だと相続手続きはどうすれば良い?

父が亡くなったら配偶者である母と子で父の遺産を相続しますが、
母が認知症だと通常の相続手続きを進めることができません。

では父死亡で母認知症という状況ではどういった相続手続きが必要なのかを
詳しく見ていきましょう。

相続人に認知症の人が居ると遺産分割協議ができない

死亡した父の遺産を相続するのに母が認知症だと通常の相続手続きができないのは、
認知症になると「正常な判断能力を欠く」とされているからです。

遺産相続の手続きでは父の遺産をどのように分けるのかを認知症の母を含めた
相続人全員で話し合わないといけません。

話し合って相続人全員が同意できる落としどころが見つかったら、
遺産分割協議書を作成して実際に父の遺産を分け合うことになります。

しかし認知症と診断された母は正常な判断能力を欠いており、
正常な判断能力を欠いた母の法律行為は無効とされてしまうのです。

遺産分割協議書の作成は法律行為ですから、相続人に認知症の人が居ると
遺産分割協議書を作成することができないので通常の相続手続きができないわけです。

認知症でも遺産分割協議に参加できることがある

認知症と診断された母が居ても、
通常の手続きで死亡した父の遺産を相続することが可能なケースもあります。

一口に認知症と言っても、日常生活にあまり影響のない軽度からほぼ記憶を失って
肉親と他人の判別もできなくなる重度まで段階が分かれています。

肉親の判別ができない重度の認知症では、
さすがに通常の相続手続きを進めることはできません。

しかし日常生活にあまり影響のない軽度の認知症であれば法律行為も有効と
認められるので、通常の相続手続きが可能となります。

ただ法律行為が有効な軽度の認知症であるかどうかを判断するのは医師です。

父死亡で母認知症という状況で相続手続きが必要な場合は、
まずはかかりつけの医師に母の法律行為が有効かどうかの判断をしてもらいましょう。

実際に相続手続きを行う時に母が認知症であることが壁になることもあるので、
母の法律行為が有効と判断された診断書を作ってもらっておくのがベターです。

父の遺言書があれば母が認知症でも通常の相続手続きが可能

相続人の母が認知症であっても、
死亡した父が遺言書を遺していれば通常の相続手続きが可能となります。

遺言書に記載されている内容に沿って相続手続きを行うので、
遺産分割協議書を作る必要がありません。

遺産分割協議書が不要と言うことは遺産分割協議での母の同意も不要なので、
母が認知症でも通常の相続手続きができるというわけです。

ただし父の遺言書が公正証書遺言もしくは有効な自筆証書遺言でないと
遺産分割協議書の作成が必要となります。

遺言書は民法に定められた要件を満たしていなければならず、
その要件を全て満たしていない自筆証書遺言は無効となってしまいます。

自筆証書遺言は無効と判断されることも多いので、
死亡した父の自筆証書遺言の取り扱いには注意が必要です。

父死亡、母認知症では相続はどうすれば良い?

父が遺言書を遺さずに死亡して母が認知症と診断されている場合の相続には
3つの選択肢があります。

1つ目は「母が亡くなるまで遺産を分割しない」という選択肢です。

父が死亡したらすぐに遺産を分割・相続しなければならないわけではなく、
死亡した父名義のままにしておいても特に問題はありません。

土地や家屋の名義人が死亡したら名義を変更しないといけないというルールは
現状は無く、10年20年死亡した父名義のままで残しておくことも可能です。

預貯金口座については金融機関が名義人の死亡を把握した時点で凍結されるので、
お金の引き出しができなくなってしまいます。

お金の引き出しはできなくなっても凍結された口座が無くなることはありませんから、
死亡した父名義の口座をそのまま残しておけます。

ただし最後の取引から10年が経過すると休眠口座となり、
口座の管理権限が金融機関から預金保険機構へと移されるので注意が必要です。

とりあえず相続手続きをせずに遺産を父名義のままにしておき、
認知症の母が亡くなった時に改めて相続手続きをするわけです。

相続人に認知症の人が居なければ通常の相続手続きができるので、
認知症の母が亡くなるまで相続手続きしないのも1つの方法となります。

ただし相続税申告が必要な場合は土地や口座の名義変更が必要となりますから、
母が亡くなるまで相続手続きをしない選択肢を選ぶことは難しいです。

また土地・家屋の相続登記が義務化されることも決まっているので、
今後は認知症の母が亡くなるまで相続手続きしないということはできなくなります。

法定相続

2つ目は「法定相続分で死亡した父の遺産を分割する」という選択肢です。

法定相続分とは法律で定められた各相続人の取り分割合のことで、
配偶者と子の場合はそれぞれ1/2となっています。
(子が複数人の場合は1/2を均等に分ける)

死亡した父の遺言書が無く、
遺産分割協議も行わないと法定相続を選択したと見なされます。

法定相続での相続手続きには遺言書も遺産分割協議書も不要ですから、
母が認知症であっても通常の相続手続きが可能です。

法定相続のデメリット

母が認知症の場合には法定相続を選択するのも1つの方法ですが、
法定相続にはいくつかのデメリットもあります。

最大のデメリットが土地や家屋などの不動産が法定相続では
相続人全員の共同名義となってしまうことです。

共同名義の不動産を売却するには名義人全員の同意が必要ですから、
当然認知症の母の同意も必要となります。

しかし認知症の母の法律行為は無効と見なされるので、
法定相続を選ぶことで母が亡くなるまでは実質的に不動産を処分できなくなるのです。

もう1つのデメリットが金融機関の担当者が法定相続の意味を理解していない恐れが
あることです。

法定相続であれば死亡した父の遺言書や遺産分割協議書なしで
認知症の母が相続人であっても、父名義の口座の相続手続きできます。

ところが金融機関の担当者が法定相続について理解していないと、遺言書が無く
認知症の母が居る時点で父名義の口座の相続手続きを拒否されてしまいます。

弁護士や司法書士など相続の専門家であれば説得可能ですが、
素人だといくら説明しても法定相続での相続手続きは難しいです。

母が亡くなるまで父名義のまま口座を残しておくか、
後述する成年後見人を選定して相続手続きを行うしかありません。

さらに法定相続には相続税の節税対策ができないデメリットもあります。

相続税には配偶者控除制度があり、死亡した人の配偶者が受け取る遺産が
 ・法定相続分(遺産総額の1/2)
 ・1億6千万円以下
のいずれかであれば配偶者の相続税納付が免除されるのです。

例えば母と子の2人が相続人だとして遺産総額が1億円だとすると、
相続税の基礎控除額は4200万円なので相続税が発生します。

ところが遺産分割協議で遺産を全て配偶者である母が相続することにすれば、
配偶者控除が適用されて相続税を払わずに済みます。

ちなみに配偶者控除を利用するには相続税がゼロであっても申告が不可欠で、
母が亡くなった時の相続税負担が大きくなる恐れもあるので注意も必要です。

法定相続で遺産総額が基礎控除額を超えている場合には、
配偶者控除を利用した節税ができません。
 

成年後見人の選定

3つ目は認知症の母の「成年後見人」を選定する選択肢です。

成年後見人は認知症など正常な判断能力を欠く人に代わって相続手続きなどの
法律行為を行う権利を有する人のことです。

認知症の母に代わって成年後見人が意思決定できますから、
成年後見人を選定することで相続手続きがスムーズに行えます。

成年後見人には2種類ある

成年後見人には
 ・法定後見人
 ・任意後見人
の2種類あります。

法定後見人は家庭裁判所に後見人の申し立てをして、
家庭裁判所の判断によって選定された後見人のことです。

任意後見人は認知症などで正常な判断能力を失う前に本人が選定した後見人です。

ただし法定後見人には選定された時点から後見人としての権利を有しますが、
任意後見人は選定された時点では後見人としての権利は有しません。

任意後見人は選定した本人が認知症などで正常な判断能力を失ったと
医師が判断した時点から後見人としての権利が発生するのです。

父死亡で母認知症という状況では任意後見人を選定していない可能性が高いので、
必然的に法定後見人を選定することになります。

親族は法定後見人になれない?

任意後見人は本人が選定するので親族が選ばれることが多いが、
法定後見人は家庭裁判所が選定するので親族が選ばれない可能性もあります。

2019年に最高裁判所が「法定後見人は身近な親族が望ましい」という見解を
示したことで、法定後見人に親族が選ばれるケースも増えてきました。

ただ現在でも法定後見人には弁護士や司法書士などの専門職後見人が相応しいと
考える家庭裁判所が多いです。

そのため家庭裁判所に成年後見人の申し立てをしても
親族が後見人の選定される可能性が低くなっているのです。

家庭裁判所が成年後見人を親族にするか専門職後見人にするかを決めるのに
1つの基準があります。

絶対的な基準ではありませんが、預貯金など流動資産が1200万円以上だと
家庭裁判所は専門職後見人を選定するケースが多くなっています。

預貯金などの流動資産が1200万円に満たなければ、評価額が億を超える不動産を
持っていても専門職後見人ではなく親族が後見人に選定される可能性があるのです。

専門職後見人には報酬を支払う必要がある

弁護士や司法書士などの専門職後見人が家庭裁判所によって選定されると、
後見人に対して報酬を支払わないといけません。

親族が任意後見人となる場合は無償のケースが多いですが、
法定後見人で専門職後見人となると基本的に有償です。

法定後見人の報酬は後見人を選定した家庭裁判所が決めるので、
明確な基準といったものは存在しません。

ただ東京家庭裁判所立川支部が2013年に「成年後見人等の報酬額のめやす」を
示しており、これを参考にすると基本報酬は月額2~6万円となっています。

被後見人の財産額によって基本報酬が決まるので、財産額が少なければ月額2万円、
多いと月額6万円となります。

また後見人の仕事に「特別困難な事情」があると、
基本報酬の50%の範囲内で付加報酬を受け取れるようになっているのです。

遺産分割協議への参加は「特別困難な事情」と見なされるので、認知症の母に
成年後見人を選定して遺産分割協議を行うと報酬が1.5倍になるということです。

ちなみに法定後見人の報酬は基本的に被後見人の財産から支払われます。

法定後見人は親族の都合では解任できない

法定後見人は家庭裁判所が選定しているため、
被後見人の親族の都合で解任することができません。

報酬の負担が大きいので後見人を変えたいあるいは後見人の利用自体を
止めたいと思っても親族が法定後見人を解任することはできないのです。

法定後見人を解任する権限を持っているのは選任した家庭裁判所で、不正な行為や
後見人に事由が無い限りは解任を申し立てても認められない可能性が高いです。

また一度後見人制度を利用した以上は、被後見人が死亡するもしくは正常な
判断能力を有するまで認知症が回復するまでは後見人制度の利用を止められません。

現状では認知症が回復することはほとんど考えられないので、被後見人が
死亡するまでは法定後見人を解任しても次の法定後見人が選定されるだけです。

成年後見人を選定すると親族は被後見人の財産に手を付けられない

認知症の母に成年後見人を付けると、
認知症の母が相続した父の遺産に子などの親族は手を付けられなくなります。

成年後見人は被後見人の財産を守ることを意思決定の基準としているため、
被後見人の財産を減らすことに繋がる行為には同意できません。

例えば死亡した父名義の自宅を認知症の母が相続して母名義に変更したとします。

認知症が進行して母を施設や病院に預けざるをえなくなった場合、子は母名義の
自宅を処分して施設や病院に預ける費用を捻出しようとすることがあります。

後見人は自宅を処分すると万が一母の認知症が回復した場合に帰る場所が
無くなると考えて、母名義の自宅を処分することに同意しない可能性が高いのです。

また将来的に施設や病院に預けることを想定して、
母名義の口座に入っているお金を運用して増やそうと考えるケースもあるでしょう。

口座に入っているお金を運用して100%増える保証があるなら後見人も同意するで
しょうが、100%増える保証がある運用方法は無いので後見人は運用に同意しません。

成年後見人を付けることで認知症の母が持っている不動産は基本的に保存、
預貯金など現金は生活費など母が生きていくのに必要な分しか使えなくなるのです。

親族が後見人になっても母の財産は自由には使えない

親族が成年後見人に選定されたとしても、
認知症の母の財産を自由に使うことはできません。

認知症の母が現在住んでいる自宅及び施設・病院を退所・退院した後に住む予定の
住居は家庭裁判所の許可が無いと後見人の判断だけでは処分できないのです。

現金や預貯金についても信託銀行に専用口座を作って管理してもらう
「後見制度支援信託」を利用する必要があります。

後見制度支援信託の利用には手数料がかかりますし、
被後見人の生活に必要な分の現金しか使えなくなります。

親族が後見人になるにしても専門職後見人が選定されるにしても、
認知症の母が持つ財産を子が自由に使うことはできないのです。

まとめ

父死亡で母認知症という状況で相続手続きを行うには、
法定相続か母の成年後見人を選定するのいずれかが現実的な方法です。

法定相続だと口座の相続手続きで金融機関の同意が得られない可能性が高いので、
相続手続きをスムーズに行うには成年後見人を選定するしかありません。

成年後見人で分からないことがある場合は、市町村の地域包括支援センターや
社会福祉協議会、弁護士、司法書士などに相談してみてください。

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