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建設業許可を持つ個人事業主が代替わりするには

建設業許可を受けた個人事業主が引退して子供や従業員に代替わりする際、
できれば建設業許可もそのまま引き継ぎたいところです。

では個人事業主が受けた建設業許可を引き継ぐことは可能なのか、
引き継げるとすればどうすれば良いのかなどを詳しく見ていきましょう。

個人事業主の建設業許可は引き継げる?

個人事業主が受けた建設業許可を子供や従業員など代替わりする人に
そのまま引き継ぐことは可能です。

個人事業主の建設業許可を引き継ぐには
 ・法人成り
 ・事業譲渡
 ・相続
の3つの方法があります。

「法人成り」は建設業許可を持っている個人事業主が株式会社や合同会社など
法人を作り、個人事業主から法人に事業譲渡する方法です。

後継者を法人の役員にして一定期間経験を積ませた後、法人の代表を後継者に
譲ることで個人事業主の建設業許可をそのまま引き継がせられます。

以前は法人成りしか個人事業主の建設業許可を引き継ぐ方法が無く、
現在でも一番ポピュラーでよく利用されている方法です。

2020年の建設業法改正で可能となったもう1つの方法が「事業譲渡」です。

建設業許可を持っている個人事業主が後継者となる個人事業主に
建設業許可を含めた事業全体を譲渡します。

後継者は事業を譲り受ける対価を先代に支払うことで、
個人事業主間で建設業許可を引き継げます。

同じく2020年の建設業法改正で可能となったのが「相続」による建設業許可の
引き継ぎです。

建設業許可を持っている個人事業主が亡くなってから30日以内に、
相続人である子供が自治体に認可申請して認められると建設業許可が引き継げます。

親族が亡くなると悲しむ暇もないほどバタバタしますが、
建設業許可の相続申請は30日しか期限がないので注意してください。

建設業許可は新規取得より引き継ぐ方が有利

建設業許可に関しては新規で取得するよりも引き継げるなら引き継いだ方が
有利ではあります。

先に紹介した3つの方法で建設業許可の引き継ぎができますが、
いずれの方法でも申請手続きの煩雑さは新規取得と変わりません。

しかも引き継ぐのに必要な要件をクリアすることも簡単ではないので、
手間だけで考えると引き継ぐよりも新規取得方が簡単だったりします。

ただ「建設業キャリアアップシステム」が導入されたことで、建設業許可の継続年数が
建設業を営む個人事業主の待遇を大きく左右するようになっています。

継続年数が長い方が賃金など待遇が良くなりますから、一からキャリアを積み直すより
多少手間がかかっても建設業許可を引き継ぐ方が有利というわけです。

建設業許可の引き継ぎはプラスばかりではない

建設業キャリアアップシステムの点では建設業許可を引き継ぐ方が有利ですが、
建設業許可の引き継ぎはプラス面ばかりではありません。

遺産相続と同じで建設業許可の引き継ぎではプラス面はもちろんマイナス面も
そのまま引き継ぐことになります。

許可番号をそのまま引き継ぐことで継続年数も引き継げることは、
建設業キャリアアップシステムによる待遇面で有利です。

ただし先代が不正行為や不誠実な行為で行政処分を受けている場合は、
その行政処分履歴も引き継ぐことになります。

現状では処分を受けていなくても履歴は残り、
国交省の公式サイトで処分を受けたことが確認できます。

たとえ処分を受けたのが先代であっても、
建設業許可を引き継いだ以上は処分履歴も引き継がないといけないのです。

業者選定の際にマイナスになることもあるので、処分履歴によっては一からキャリアを
積み直すことになっても建設業許可を新規取得した方が良いかもしれません。

個人事業主の建設業許可を引き継ぐ要件

個人事業主が受けた建設業許可を無条件に引き継ぐことはできず、
いくつかの要件を満たさないといけません。

先に紹介した3つの方法全てに共通する要件として
 ・所管の役所への相談
 ・役所の認可
 ・後継者が建設業許可を受けるのに必要な要件を満たしていること
の3つが挙げられます。

「所管の役所への相談」では、
事前に建設業許可を所管している役所に建設業許可を引き継ぐことを相談します。

相続では事前の相談はできませんが、
将来的に建設業許可を相続するつもりなら事前に役所に相談しておくのがベターです。

建設業許可を所管しているのは国土交通省と各都道府県で、個人事業主の場合は
基本的に各都道府県で建設業許可を受けているケースが多いです。

大臣許可と知事許可の大きな違いは事業所の数で、
都道府県を跨いで2つ以上の事業所を構える場合は大臣許可となります。

複数の事業所を構えているのは基本的に法人ですから、
個人事業主は事業所が1か所のみのケースが多いので知事許可となるのです。

「役所の認可」は、相談と同じく建設業許可を所管する役所に建設業許可を
引き継ぐための申請を行って認可を受けることです。

知事許可であっても国交省と協議して審査を行うので、
申請してから認可が下りるまでに1か月程度の時間がかかることもあります。

建設業許可を受けるのに必要な要件

建設業許可を引き継ぐには、
後継者が建設業許可を受けるのに必要な要件を満たしていないといけません。

建設業許可を受けるのに必要な要件は
 ・経営管理責任者の確保
 ・専任技術者の確保
 ・請負契約に関して不誠実でないこと
 ・財産的基礎、金銭的信用があること
 ・欠格要件に該当しないこと
 ・社会保険の加入
の6つです。

6つ目の「社会保険の加入」は、建設業者として働いていれば
社会保険の加入していないことは無いでしょうから基本的に問題ありません。

問題は残りの5つで、特に「経営管理責任者の確保」「専任技術者の確保」
「財産的基礎、金銭的信用があること」の3つを満たすのが難しいです。

まず「経営管理責任者の確保」ですが、
個人事業主の場合は当然ですが個人事業主本人が経営管理責任者となります。

ただし個人事業主なら誰でも建設業許可における経営管理責任者になれるわけでは
ありません。

これまで建設業の経営に一定期間以上携わっていないと、
建設業許可における経営管理責任者にはなれないのです。

具体的には
 ・建設業者の役員(取締役、事業主など)を5年以上務める
 ・執行役員など権限の委任を受けて建設業を5年以上経営
 ・工事部長や個人事業の専従者など経営者の補助を6年以上務める
 ・役員(2年以上)を含めて建設業者の財務、労務、業務運営の役員や役員に
準ずる地位を5年以上経験
 ・建設業の役員(2年以上)を含めた役員経験が5年以上
のいずれかを満たしていないと建設業許可における経営管理責任者にはなれません。

子供や従業員に建設業許可をそのまま引き継ぐには、
最低でも5年以上の準備期間が必要です。

専任技術者の確保

次に「専任技術者の確保」ですが、個人事業主の場合は経営管理責任者と
専任技術者を1人で兼任しているケースが多いです。

建設業許可における専任技術者となるのには
 ・国家資格
 ・実務経験
 ・学歴+実務経験
のいずれかが必要となります。

建設業の業種に応じた国家資格を持っていれば、
実務経験が無くても建設業許可における専任技術者となれます。

例えば建築業だと
 ・1級建築施工管理技士
 ・2級建築施工管理技士(建築)
 ・1級、2級建築士
のいずれかの資格が必要です。

国家資格を持っていなくても建設業の実務経験が一定以上あれば専任技術者として
認められます。

専任技術者に必要な実務経験は経営に関わるものでなくても構わないので、
単に従業員として建設業者で働いていればOKです。

ただし専任技術者となるには10年程度の実務経験が求められます。

高校や大学、専門学校で建設業に関係する学科を専攻していると、
専任技術者となるのに必要な実務経験の期間が短縮されます。

例えば建築業だと「建築学」または「都市工学」に関する学科を専攻していると、
高卒なら5年、大卒だと3年の実務経験でOKです。

専門学校卒で高度専門士・専門士の称号を得ている場合は大卒、
それ以外は高卒と同じ扱いとなります。

請負契約に不誠実でない

3つ目の「請負契約に不誠実でないこと」ですが、これは建設業法に定められた
「不正または不誠実な行為」を行う恐れが無いことを指します。

建設業法で定められている不正な行為は「請負契約の締結や履行の際の詐欺や
脅迫など違法な行為」です。

不誠実な行為は「工事内容や工期、不可抗力による損害の負担などについて
請負契約に違反する行為」のことです。

5年以内に建設業許可の取り消しを受けている場合は、
請負契約で不誠実な行為を行う恐れがあると見なされてしまいます。

また反社会的勢力や反社会的勢力の構成員は建設業許可が受けられません。

不正な行為や不誠実な行為を行う恐れが無いことを客観的に証明するのは難しいです。

ですから5年以内に建設業許可の取り消しを受けていない、反社会的勢力の構成員で
ないことが証明できれば請負契約に不誠実でないと見なされる可能性が高いです。

財産的基礎、金銭的信用がある

次のいずれか1つを満たすことで財産的基礎、金銭的信用があると見なされます。

1つ目は「自己資本金が500万円以上あること」、
2つ目は「500万円以上の資金調達能力があること」です。

3つ目は「申請の直前5年間許可を受けて建設業を継続した実績を有すること」です。

個人事業主の建設業許可の引き継ぎでは、現状で500万円以上持っているか
500万円以上調達できることのいずれかを満たすことになります。

欠格要件に該当しない

建設業許可には欠格要件が定められており、
後継者が1つでも欠格要件に該当する場合は建設業許可を引き継げません。

欠格要件は
 ・破産者で復権を得ていない
 ・心身の故障で建設業を適切に営めない
 ・5年以内に建設業許可の取り消しを受けた
 ・5年以内に建設業許可取り消しを免れるために廃業した
 ・不誠実な行為等で営業停止を受けている
 ・禁錮以上の刑を満了してから5年以上経過していない
 ・執行猶予期間中である
 ・指定の法律違反で罰金刑以上に処せられ、その満了から5年以上経過していない
 ・5年以内に反社会的勢力の構成員であった
 ・反社会的勢力が事業活動を支配している
となっています。

注意すべきは「執行猶予期間中である」で、交通違反や交通事故で執行猶予付きの
判決を受けている場合も欠格要件に該当してしまいます。

法人の場合は申請者だけでなく経営管理責任者や専任技術者、さらに役員などに
欠格要件該当者が居ると建設業許可が受けられないので気を付けてください。

法人成りによる代替わりで建設業許可を引き継ぐ

建設業許可の引き継ぎでもっともよく使われる方法が法人成りによる代替わりです。

法人成りで建設業許可の代替わりを行うには、
まず後継者が建設業許可を引き継ぐための要件を満たしておく必要があります。

建設業許可を引き継ぐには後継者が法人の常任役員にならないといけません。

常任役員となるには、建設業者や建設業を営む個人事業主として
 ・経営業務の管理責任者を5年以上
 ・執行役員など経営管理責任者に準ずる地位を5年以上
 ・経営管理責任者の補佐を6年以上
のいずれかの経歴が必要です。

個人事業主が子供への代替わりを行う場合には、
個人事業主の専従者として3つ目の要件を満たすのが一般的です。

法人設立登記

後継者が法人の常任役員になれる要件を満たしたら、
次は株式会社や合同会社など法人の設立登記を行います。

個人事業主の法人成りは「法人設立登記」に必要な書類を作成するところから
スタートです

まず法人の基本事項である
 ・商号(会社名)
 ・事業目的
 ・本店所在地
 ・資本金
 ・役員
などを決めます。

次に「定款」を作成して公証役場で作成した定款を認証してもらう、
もしくは電子定款を作成して公証役場のオンライン認証を受ける形でもOKです。

定款の認証を受けたら、
定款で定めた資本金を発起人代表者の個人口座に振り込みます。

資本金を振り込んだら「登記申請書」を作成して、
定款や印鑑証明書など必要書類を添えて法務局に提出して法人設立登記は完了です。

法人設立登記が完了したら
 ・税務署
 ・都道府県税事務所
 ・年金事務所
 ・労働基準監督署
 ・ハローワーク
で所定の届出や手続きを行います。

資産の売買契約書や債務の引受契約書を個人事業主と新たに登記した法人の間で
交わして、資産や債権債務を引き継ぎます。

法人名義の銀行口座を作って、
個人事業主の廃業届を提出して法人の設立登記手続きは完了です。

後継者を常任役員にして代表を交代

法人を設立したら、建設業許可を引き継ぐ後継者を常任役員として設立した法人に
迎え入れます。

設立時点で後継者が常任役員の要件を満たしていれば、
設立登記の時点で役員に名を連ねていても問題ありません。

後継者が建設業許可の取得要件を満たしていることを確認して、
法人の代表を後継者に譲ることで建設業許可の引き継げます。

法人成りで建設業許可の代替わりを行うには、
最初に所管の役所への相談が必要です。

いきなり法人登記をするのではなく、まずは都道府県の担当窓口で法人成りによる
建設業許可の代替わりについて相談しましょう。

法人の設立登記は司法書士の専門なので、法人成りで建設業許可の代替わりを
行う場合は司法書士に相談しておくのもおすすめです。

まとめ

個人事業主が取得した建設業許可を子供や従業員などに引き継ぐことは可能です。

建設業許可を引き継ぐには
 ・法人成り
 ・事業譲渡
 ・相続
の3つの方法がありますが、いずれも決して簡単ではありません。

建設業許可を持つ個人事業主で代替わりを考えているなら、
まずは所管の役所や司法書士に相談してみてください。

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